ホスピタリティ視点・5

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カルナバイオサイエンス株式会社

 吉野公一郎…不治の病・創薬に挑む!
   その信条と目的について



~カルナバイオサイエンス社サイン~



聞き手:楠見健一(
神戸夙川学院大学教授・神戸新聞社友)

 

野公一郎は…  

神戸ポートアイランド先端医療ゾーンに50人強という研究所規模でありながら、昨年世界のメガファーマ・ジョンソン&ジョンソンへライセンス契約(導出)を果たした気鋭のバイオ企業・カルナバイオサイエンス社の薬学博士(同社代表取締役社長)です。

「病んでいる人に医者は要るのです」とは福音書ルカの言葉ですが、吉野とそのスタッフは病気に効く薬こそが多くの人間が抱える不治の病を克服する手段であることを確信しています。高価な医薬品ではなく安価で副作用が極めて少ない薬を創出しようとしているのです。
本インタビユーでは現代医学では乗り越えられない病(ガン、リウマチ、マラリア、神経変性疾患など)を世界トップレベルのキナーゼを保有し、選択性の高いキナーゼ阻害剤(分子標的薬・低分子化合物)でそれら疾患を副作用もなく安価で供給できる創薬づくりをめざして奮闘する吉野をはじめとする研究スタッフの姿勢や抱負をお聞きしました。

(インタビュー・撮影 2016年4月26日 於・カルナバイオサイエンス社)

Q カルナ社発足に至った経過とキナーゼに特化した経過についてお伺いします

 
A
   吉野 1991年カネボウ薬品研究所からオランダ・オルガノン社の日本の医薬研究所に移った当時は30人ほどのスタッフでした。その後同社の主要医薬品の特許切れを契機として、日本からの撤退を余儀なくされ、当社の創業メンバーは、2003年の創業当時、バイオベンチャーが相次いで株式市場に上場している環境から、独立してバイオベンチャーを設立することにしました。
創業時の志として、「年齢にかかわりなく人の健康を脅かす不治の病を治す薬を作りたい、特に免疫に関係する病気治療を受ける若い世代は、その治療に莫大な時間と経費をかけるその損失は計り知れなく大きい。
飲み薬だとその点が解消するし安価で大量生産ができる、達成できれば創薬する側も仕事冥利に尽きるという喜びを持つことができ、成し遂げたいという切実な願いからキナーゼ阻害剤の研究を手がけることにしました。
 

 Q   がん、神経変性、炎症性疾患は現在なお不治の病ですが、医療薬学的現状について教えていただけますか   

A 例えばがんは10年前までは、患部の切除と化学療法剤投与という治療法をとる以外になく、強烈な副作用を伴うことは普通のこととされていました。最近は分子標的薬剤の投与で延命が可能となりました。例えば肺がんに対するイレッサなどがそれですが、ある程度は効いても耐性が生じ効かなくなってしまいます。今はさらに進歩して、耐性が生じても阻害するキナーゼ阻害剤なども開発されており、延命効果はさらに高まっております。最近では、免疫によるがん細胞をやっつける力をがんが拒否しないようにさせることができるまでになりました。小野薬品工業が開発したオプジーボという抗体医薬品がそれです。 具体的にはがん細胞にアンテナPD-L1が立っていて、このアンテナは正常細胞が持つアンテナと同じものをがん自身が複製しているのです。つまりがんはうまくコピーのアンテナを作りだし、キラーT細胞の攻撃を受けないようにしているのです。オプチーボという抗体薬剤は、キラーT細胞のPD-1受容体を"PD-1抗体によりふたをして、がん細胞が免疫にブレーキをかけられないようにすることで、免疫本来の力を発揮できるようにして、“がん”そのものを殺してしまうという働きを有しています。同薬剤はいまのところ70%の患者には効かないのですが30%の患者によく効いており、再発は全くなくなってしまい完治する患者もいらっしゃいます。がんは確実に延命から根治の時代に入ったと言い切ることができます。疾病とキナーゼ阻害剤との関連についてお伺いしたいのですが。抗体医薬品は薬価がとても高く汎用性が高まれば国の保険財政が持ちませんし、自己免疫疾患(ひどい下痢など)といった副作用がでることもあります。低分子のキナーゼ阻害薬はすでに30種類ほど出ましたが耐性ができ単なる延命に留まっています。当社のキナーゼ阻害薬についてですが、まずキナーゼは細胞が増えるときなどに細胞内で信号のやり取りする役割を果たす、つまり活発に分裂するがん細胞には活発にシグナルの伝達があり、そのシグナルを遮断すればがん細胞は増えなくなるという考え方です。例えば肺がんのうち小細胞がんは小細胞がん特有のシグナルがやり取りされ、リウマチなどの免疫炎症疾患にはリウマチ特有のシグナルが出されています。特定のキナーゼのみを選択的に阻害するシグナル阻害剤は、結果的にがん細胞や炎症抗原だけに効いて正常細胞は傷をつけないことになりますし、選択性が高くて副作用もなくなります。しかし飲まなくなるとまたシグナルが復活してきますので飲み続けなければなりません。ではオプチーボ(抗体医薬品)はなぜある人に効いて他の人に効かないのか。原因の一つに免疫が弱まってキラーT細胞の数が減ってしまっている、またはそのアンテナの部分に欠損があるなどが考えられます。実はキラーT細胞を元気づけたり増やしたりするのもキナーゼによるシグナル伝達が関係しているところから、キナーゼ阻害剤などと抗体医薬・オプチーボと併用していけば有効性が作用し合い、多くの人のがんが消滅し根絶できることを期待しているわけです。いわば併用(補完的)療法です。最近アメリカでの癌学会に参加してきましたが、今やこの根絶と併用療法の話題一色でした。

Q パイプラインではマラリア、パーキソン氏病、アルツハイマー、白血病幹細胞、貧血にも取り組んでおられますが、進捗状況なども含めてお聞かせ願えますか

 

A  吉野特にマラリアは毎年2億人近くが感染し3千万人近く死亡しており、世界における病死のトップです。それに大半の罹患地域が高価な薬キナーゼ阻害薬とはを買えない国や地域の人たちです。何とか安価で副作用のない薬を開発して人類のために貢献したいと思っています。以前から北里研究所と共同研究していて試験管の中ではありますが、人の赤血球に原虫を入れキナーゼ阻害剤・化合物を用いたところ原虫退治に良い結果を出すことができています。
またパーキンソン氏病などの神経変性疾患でもよい化合物が見つかっており、うまくいけばアルツハイマー病までいけると思っています。というのもアルツハイマー病に関する創薬研究ではマウスによる薬効評価だけでも最低一年かかり、研究と薬の開発に相応の時間とコストがかかります。パーキンソン氏病は脳の神経が死ぬわけですが、マウスのパーキンソン氏病モデルでの評価は一か月で出ます。まずパーキンソン氏病で効果を確かめ臨床試験にまで持っていき、アルツハイマー病には適応症拡大ということで応用するという考え方です。同疾患は進行を遅らせる薬(アリセプトなど)はあっても進行を止める薬がありません。神経が死ぬことを抑えるようにもっていければよいわけで、キナーゼ阻害薬がその役割を果たせるはずです。

Q 今後の導出、パイプライン展望と抱負についてお伺いします

A 吉野 世界の傾向は自社で開発するよりバイオベンチャーを会社丸ごと系列化、また知的財産のみをライセンスインして創薬する方向に進んでいます。幸い当社は347種類のキナーゼを保有しており、各キナーゼが果たす役割を絞り込むことで自由に病気に効く化合物を作りだせる環境を所有、M&Aなどの行為によらない独自の創薬づくりが可能でとても有利です。
有効な薬のない病気もたくさんあり、待機テーマは幾つもあります。すでに幾つかの化合物も見つかりかけており、早晩パイプラインに登場すると思っています。

今後の導出作業についてはコンテンツ、セキュリティ面を確保することはいうまでもありませんが、誠実な対応をしてくれる相手(製薬会社)を識別して交渉に当たっていくことが大切だと思っています。
その点ジョンソン&ジョンソンはフェア―でとても誠実な対応をしてくれました。というのも当社のキナーゼ阻害剤を評価し、前臨床段階の結果が非常にきれいに再現できたことをとても喜んでくれています。それだけ上市できる可能性も高くなることも意味します。J-ラボ設立のお誘いもそのような過程を経て将来何か一緒にというジョンソン&ジョンソン側の期待もあったものと思われます。
世界のメガファーマは薬価に絡む利益をこよなく追求する姿勢をベースに創薬を考えますが、われわれは多くの人が我々の開発した創薬で命を永らえ、治療時間の短縮を図れることで有意義な生活と日常生活を勝ち得るためにお役に立ちたいという願いを込め創薬づくりに邁進していきます。




◦取材を終えて…

ンタビューを終えたそのときリーダーから研究職員全員に至るまで、カルナ社は心を一にしてビッグな創薬開発に挑んでいる姿が覗えました。心に響いてきたのは人類へのもてなし(ホスピタリティ)スピリッツが光り輝いており、世界のひのき舞台にほどなく躍り出ることを確信したということです。 近い将来に一つの薬剤が上市なるとき吉野氏と再びお会いできますことを祈念してK.Kusumi



 

創薬活動その後…主なる進捗

 
★黒字転換へ…2019年6月 
ギリアド社とライセンス契約 DGK10種独占使用権含む

バイオノバ社…AS1763・次世代BTK阻害剤  中華圏のみ導出 2020年3月16日 (血液がん)

★BTK阻害剤AS-0871 第I相臨床試験投与開始…2020年8月25日 (炎症性免疫疾患)

BTK阻害剤AS-1763 第I相臨床試験投与開始2021年4月28日 (血液ガン)

CDC7阻害剤AS-0141 第I相臨床試験投与開始2021年6月14日 (固形ガン)

ギリアドより…初マイルストーン受領  DGKパイプライン進捗 2021年12月23日 (新規DGKα)

ブリッケル・バイオテック…新規 STING 阻害剤  STINGアンタゴニスト・導出 2022年2月2日 (免疫・炎症疾患)

ギリアド…新規DGKα阻害剤  GS-9911と銘名 2022年4月15日 (がん免疫)

次世代アッセイ機器によるプロファイリングシステム開発成功のお知らせ 2023年5月24日 

BTK阻害剤AS-1763 第I相b 臨床試験投与(米国)開始2023年8月2日 (血液ガン)

GS-9911(DGKα) 第I相入り ギリアドからマイルストーン授与2023年12月14日 (がん免疫)

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